こども救急箱

vol.298 爪かみや枝毛

―よく観察し話を聞く―

南日本新聞掲載日付 2022/02/04

こどもが「爪をかむ」、「皮膚をむしる」、「唇をかむ」などの行動を繰り返すことがあります。「様子をみていたがおさまる気配なく、傷もひどくなった」と相談を受けることもありました。

本人がやめようとしてもなかなかやめられないので、周囲の目につかないように隠れて行うこともあります。このような行動は、直前に緊張や不安があり、その行動を行うことで気持ちが和らぎ、解放感を得られるためにすることが多いようです。

自分を傷つける行動の中には、「毛を抜く」というのもあります。髪の毛のこともあれば、まつげやそれ以外の体毛のこともあります。爪をかむ行為に比べると目立ちにくいのですが、よく観察すると抜く動作に気づくことができます。

利き手ですることが多いので、利き手側に抜けた部分が多いです。行動自体をしかられてしまうと隠れてするようになったり、かえって行動が強くなったりすることもあります。

このような異常行動に気づいた時には「またしている!」と怒ったりせず、まずどんな時にしているのかをよく観察することが大切です。

本人は無意識にしていることもあるので、どんな時にその行動をしているかということを、自分でも気づかせるのも大事です。

こどもの感じていることや今日の出来事など話を聞いてあげて、きっかけになる場面を少なくするよう一緒に考えてあげましょう。

考えられる対応策として、抜毛する自分に気づいたら消しゴムを握るなど他の行動に置き換える行動療法や、専門家によるカウンセリングなどがあります。

有効性はさまざまですが、周囲の大人が「苦しんでいるんだね」と寄り添ってあげて、過ごしやすい環境を作ってあげることが基本になると思います。

 

こども医療ネットワーク会員

米衛ちひろ(鹿児島大学病院小児科)

vol.297 蕁麻疹

―少ないアレルギー関与―

南日本新聞掲載日付 2022/01/07

お子さんの身体に蕁麻疹が出て、「食物アレルギーではないか」と心配して病院に駆け込む親御さんは少なくありません。

蕁麻疹とは、皮膚の一部がくっきりと赤く盛り上がった膨らみが身体のあちらこちらにでき、かゆみを伴う病気です。しばらくすると跡形もなく皮疹とかゆみが消えるという特徴があります。

6週間以内を「急性蕁麻疹」、それ以上経過した場合を「慢性蕁麻疹」と呼びます。

蕁麻疹はどうやって起こるのでしょうか。皮膚の血管の周りには「マスト細胞」という細胞があります。何らかの仕組みでマスト細胞の中に含まれている「ヒスタミン」という物質が放出されると、皮膚の血管が膨らんで皮膚の表面が赤く見えるようになります。

血液の中の血漿と呼ばれる成分が周囲ににじみ出ることで皮膚の一部が盛り上がります。ヒスタミンは神経を刺激するのでかゆみを伴います。

原因としては、アレルギーが関係している場合と、関係していない場合(物質的刺激や運動、疲労・ストレス、原因不明など)があります。一般的にはアレルギーの関与は少ないと考えられていますので、蕁麻疹を見たらすぐにアレルギー体質と断定する必要はありません。

治療は、原因が明らかな場合はそれらを回避することですが、ほとんどの場合は原因がわからないので、ヒスタミンの作用を抑える内服薬での治療が中心になります。

慢性蕁麻疹の場合、長期に内服が必要になることがありますが、ほとんどの場合は少しずつ薬の量を減らし、やがては中止できるようになります。

最近では新しい薬(生物学的製剤)も登場しています。難治で適切な治療を行ってもコントロールできず、日常生活に支障が出るような場合は専門医にご相談ください。

 

こども医療ネットワーク会員

古城圭馴美(鹿児島こども病院)

 

vol.296 子どもが頭を打ったら

―活気や機嫌の確認を―

南日本新聞掲載日付 2021/12/03

子どもが頭を打って心配された経験は、どなたにでもあるのではないでしょうか。日常的に発生しやすいとはいえ、いざその場面になると慌ててしまいますよね。

まずは意識状態、活気や機嫌、打撲した場所、強さの程度の確認が必要です。よびかけても反応がなく目をつむっていたり、反応して目を開けてもすぐに寝る、言葉を発しない、手足を動かさない場合は意識状態が悪いため、直ちに病院を受診しましょう。

頭を打った1~2時間後でも元気がない状態が続く場合や、複数回もどす状況が続く場合は受診が必要です。打撲部位に変形や腫れ、へこみがある場合は頭蓋骨骨折の可能性もあります。受傷時に強い力が働く「高エネルギー外傷」の場合は、頭蓋内出血、脳損傷をきたす場合がありますので、注意が必要です。2歳未満では約90cm以上、2歳以上では約150cm以上からの高所からの落下、高速物体との衝突、交通事故などがこれにあたります。

軽症例では頭部コンピューター断層撮影(CT)の必要はありませんが、重症例を見逃さないため、被ばくのリスクと検査のメリットなどを加味し、医師の判断でCT撮影を決定します。1回目は明らかでなくても、2回目以後のCTで頭蓋内出血や脳損傷が明らかになることがあります。けがをしてから24~48時間程度は症状の変化がないかに注意が必要です。

子どもはちょっとした隙に予期しない行動をします。目を離さないとともに、事故につながらない環境を整えることが重要です。柵の設置、ベビーベッドの柵を上げる、運転中はシートベルトを装着する、抱っこひもやスリングの使用時はかがむ、などの対策がそうです。

事故の予防、そして万が一起きてもその程度を少しでも軽くするために、日常にひそむリスクを見直してみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

加藤嘉一(鹿児島県立大島病院)

vol.295 児童発達支援

―特性に応じ行動変容促す―

南日本新聞掲載日付 2021/11/05

最近、「保育園の先生から療育をすすめられたのですが」と相談を受けることが多くなりました。「療育」は、児童福祉法に定められている児童発達支援とほぼ同義語として使われています。今回は、この児童発達支援について簡単にご紹介します。

児童発達支援は、児童福祉法に基づいて規定された、障害のある子どもやその可能性のある子どもが自立した生活を送れるようにするための支援です。もともとは身体障害のある子どもへの治療と教育を合わせたアプローチを表す用語として使われていましたが、今は障害のある子どもの発達を支援する働きかけの総称として使われることが多くなっています。

対象は、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害などを持つ子どもです。勘違いされやすいですが、医師の診断がなくても支援を受けることは可能です。むしろ、診断がつかないけど困りごとを抱えている、いわゆる“グレーゾーン”の子どもの支援を目的に現在の児童福祉法に改定されました。子どもは一人一人発達のスピードが違います。育児書に載っている発達の経過は、あくまで平均値で、遠回りしたり、順番を前後したりする子どももいます。児童発達支援では、その子の発達状況や障害特性に合わせて関わることで、できることを増やしたり、力を引き出したりすることができます。「褒められた」という経験だけで、行動が変わる子もたくさんいます。

近年、児童発達支援を行う事業所の数も増えてきています。ただし、事業所はあくまでも力を引き出す方法を見つける場所であることには注意が必要です。日常生活で実践するためには、保護者も声掛けの方法などを勉強する必要があります。療育をすすめられたら、まずは見学して、子どもが楽しそうか、自分が相談しやすそうか確認してみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

松永愛香(鹿児島大学病院小児科)

vol.294 トキソプラズマ

―妊婦への周知と予防を―

南日本新聞掲載日付 2021/10/01

皆さんは「妊娠中に猫を飼ってはいけない」と耳にしたことがあるかと思います。これはトキソプラズマ感染症を予防するためです。トキソプラズマとは寄生虫の一種で、加熱が不十分な食肉や猫のふん便に含まれており、ヒトが経口摂取することにより感染します。通常、トキソプラズマに感染しても多くは症状がありませんが、妊婦と胎児は違います。

妊婦が初めてトキソプラズマに感染すると母から胎児への垂直感染により死産や流産の原因になります。そして、生まれてきた赤ちゃんは先天性トキソプラズマ感染症にかかっている可能性があります。先天性トキソプラズマ感染症には網脈絡膜炎、脳内石灰化、水頭症の3主徴(代表的な症状)のほか、小眼球症、小脳症、肝脾腫、黄疸など多彩な症状があり、新生児期に出現するものから、精神運動発達遅延、てんかん、視力障害など乳幼児期以後に明らかになるものもあります。

このように神経学的・眼科的な後遺症が残ることがあるにも関わらず、現時点では保険診療で認められた治療法はありません。したがって、先天性トキソプラズマ感染症は予防が大切です。

具体的には、肉は十分に加熱してから食べるようにし、野菜や果物はよく洗うか皮をむいて食べてください。生肉や野菜、果物を扱った調理器具、食器も洗剤と温水で洗浄するのがいいです。

ガーデニングなどで土を触る際は手袋を着用し、土を触った後は手洗いを徹底しましょう。子どもがいる場合には、一緒に手洗いし、手指衛生の重要性を教育することが重要です。

妊娠後に新しく猫を飼い始めないようにし、従来から飼っている猫はできるだけ部屋飼いにし、猫のトイレの世話は妊婦以外の人が行うようにしましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

中江広治(鹿児島大学病院小児科)