こども救急箱

vol.293 子どもの便秘

―「ためる癖」を治す―

南日本新聞掲載日付 2021/09/03

小児科外来にくる子どもたちの中には、便秘の子が少なくありません。夜間救急で、強い腹痛を主訴に来る子たちの中で、一番多いのが実は便秘です。病院に到着すると痛みが消える子もいますが、かん腸をして便が出たらニコニコ笑顔でひと安心、ということがよくあります。痛みは腸にたまった大量の便が動くことで起こります。腹痛が繰り返し起きるため受診し、腹部レントゲン写真を撮ると、腸に「うんちがいっぱい」と驚くこともよくあります。

子どもの便秘が始まりやすいタイミングとしては、離乳食の開始時や、食事の回数をアップしたとき、トイレのトレーニング期、通園、通学の開始時などがあります。

①毎日出るものの、排便時に30分きばってもなかなか出てこない②便汁だけがよく出ている③毎回硬い便が出て、肛門が切れて血が出る④部屋の隅で足をクロスして顔を真っ赤にしている―などの症状は便秘が原因の可能性が高いです。     

また、繰り返すげっぷや嘔吐、口臭、夜尿症(おねしょ)といった症状は、便秘が原因となっている場合もあります。

便秘の要因はさまざまですが、水分不足、食物繊維不足、腹筋の弱さ、排便を我慢することなどからくる「機能性便秘」であることが多いです。

診察時は便塞栓といって便の大きな塊が直腸を塞いでいる事もあるので、塊があればまずかん腸をして除去した後、その子の状態に合わせて薬を処方します。

便を柔らかくする薬や、腸を刺激して出しやすくする薬、あるいはかん腸、座薬などを使い分けます。これらの治療は「便をためるクセ」を治すことが目的です。

治療開始が遅れるほど、治すのに時間がかかる傾向があります。ぜひお近くの小児科で相談してください。

 

こども医療ネットワーク会員

横山浩子(国立病院機構南九州病院小児科)

vol.292 肥満防止の運動

―1日1時間を目安に―

南日本新聞掲載日付 2021/08/06

新型コロナウイルス感染症の流行により私たちの生活は大きく変化し、大人だけではなく子どもにも様々な身体や心の影響がみられています。特に2020年3月の一斉休校時には体重増加を認めた子どもが増え、その影響を実感しました。

子どもの肥満のほとんどは単純性肥満といって、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回っているために生じます。小児期は成長にも大事な時期で成長を妨げない範囲のエネルギー補給が必要ですので、年齢に応じた適切な食事や運動が必要です。

具体例を挙げてみます。活動量が普通の10~11歳男児で、1日に必要な摂取エネルギーは2,250kcalです。このうち50〜60%は炭水化物で補う必要があり、1回の食事で摂取する適切な米飯の量は180〜200gです。これは大人用茶碗の一杯分に相当します。これにタンパク質、脂質、野菜や果物をバランスよく加えた食事が理想的です。食習慣で大事なことは朝食をぬかない、決まった時間に食事を摂る、ゆっくり噛んで食べることです。おかずを個々に分けて盛り付けることも食べ過ぎを防ぐのに有効です。

運動は1日1時間程度が必要と言われていますが、運動のためのまとまった時間を取る必要はなく、学校の休み時間に走り回ったり、階段を昇り降りしたりする時間も含まれます。

肥満は生活習慣病と呼ばれる2型糖尿病、高血圧などの原因となり、将来的に心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。小児期の肥満は大人の肥満に移行しやすいことがわかっており、幼児期肥満の25%、学童前期肥満の40%が大人の肥満に移行します。

したがって小児期から肥満を防ぐことはとても大切です。また肥満の予防・改善には家族皆で取り組むことが大事です。家族で生活習慣を見直してみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

関 祐子(鹿児島大学病院小児科)

 

vol.291 ぜんそくと環境整備

―ダニ対応を重点的に―

南日本新聞掲載日付 2021/07/06

ぜんそくとは何らかの理由で「気道」という空気の通り道が長い期間にわたって炎症を起こし、そこに刺激が加わることにより突然気道が狭くなり、呼吸がしづらくなるという「発作」を起こす病気です。お子さんが急に「ゼーゼー」という呼吸をはじめて息苦しそうになり、病院に駆け込んだという方も少なくないのではないでしょうか。

発作のときは狭くなった気道を広げる治療を行うことで呼吸がしやすくなりますが、発作を繰り返していくうちに気道がさまざまな刺激に反応しやすくなり発作を起こしやすくなります。そこで発作を起こしたときの治療だけでなく、発作を予防することが重要とされています。基本的には飲み薬や吸入の薬など薬剤を使用しますが、環境整備といって生活環境を整えることも重要です。

生活環境の中で影響しているものに、タバコの煙、ダニ、ペットといったアレルゲン、大気汚染物質などがあります。主に室内ではダニへの対応が重要です。ダニのエサはほこり、カビ、アカ、食べこぼしなどで、エサの多い布団やじゅうたんなどに多く生息します。そのため掃除、洗濯が大事です。

床にはじゅうたんやカーペットはなるべく敷かないようにし、掃除機かけはできるだけ毎日行い、少なくとも3日に1回は1平方メートルあたり20秒以上の時間をかけてやりましょう。畳に布団を敷いて使用している場合はダニが畳と布団を移動するためどちらも注意が必要です。寝具は1週間に1回はシーツを外して寝具の両面に直接掃除機をかけましょう。防ダニ布団や防ダニカバーも有効です。

診察時に医師から助言や指導を受けても、いきなり多くの作業をこなすのは大変です。まずは治療をしっかり継続するとともに、掃除機をかける頻度を上げたりするなど、できることから一つずつ始めてみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

中﨑奈穗(鹿児島大学病院小児科)

vol.290 コロナと思ったら

―可能な限り日中の検査を―

南日本新聞掲載日付 2021/06/01

小児科では、さまざまな迅速検査キットが使われます。主なものは、インフルエンザ、アデノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなどで、現在流行している新型コロナウイルス感染症でも、PCR検査の代わりに抗原検査を行うことがあります。

PCR検査は、ウイルスの遺伝子を試薬で増幅し、感染の有無を判断する方法です。ウイルスが少ない場合でも診断しやすいという利点がありますが、特殊な検査装置や訓練を受けた検査技師の協力が必要になります。抗原検査は、ウイルスと試薬を直接反応させて色付けし、感染の有無を判断する方法です。簡便に検査できますが、ウイルス量が少ない状態だと誤って陰性と判断する可能性もあります。これが偽陰性と呼ばれます。

抗原検査での偽陰性(PCR検査で陽性の方が、抗原検査で陰性と判定される確率)は、インフルエンザ 6%、RSウイルス 15%、新型コロナウイルス24%と言われています(イムノエース®各迅速検査キットの添付文書より)。新型コロナウイルスでは、本当の患者さんの4人に1人は、抗原検査で陰性になる計算ですので、抗原検査が陰性でも、最終的にはPCR検査が必要です。

実際の外来で困るのは、「検査は陰性でした。だけど、感染していないとは言い切れません。」としか説明できない場合です。日中でしたら、抗体検査、PCR検査などの他の特殊な検査を選択できますが、夜間の外来では、簡便な検査しかできません。遠方から来院された患者さんに、不十分な検査・説明しかできないことは、医師として非常に心苦しいです。

周囲の流行や患者さんとの接触があり、特定の感染症を疑った際には、日中のうちに医療機関へ相談、受診をしていただければと思います。

 

こども医療ネットワーク会員

髙橋宜宏(鹿児島大学病院小児科)

vol.289 免疫不全症

―早期の兆候発見が重要―

南日本新聞掲載日付 2021/05/04

お子さんが保育園に通い始めたときに、ひっきりなしにかぜを引くことは、よく経験されることだと思います。そして、「うちの子は他の子に比べ、熱がよくでるのではないか、身体が弱いのではないか」と心配になる保護者の方もいます。

私たちの身体は、病原体や毒素が体内に侵入して感染症を起こしたときに、それらを排除するための機能を備えています。そして、感染症が治った後は、同じ病原体の感染症にかからなくなったり、かかっても軽症で済んだりする仕組みがあります。それらを「免疫」と呼びます。免疫は生まれつき完成されているわけではなく、成長や感染を繰り返すことで成熟していきます。そのため、乳幼児期が最もかぜを引きやすく、症状も長引くことがあります。

乳幼児期の「かぜをよく引く」は、ほとんどが問題ありませんが、それに加え「重症化する」「発育不良を伴う」「毒性の弱い病原体による感染症にかかる」などがみられる場合は、免疫が十分に機能できていない「免疫不全症」にかかっている可能性があります。生まれつきの原因で起こる免疫不全症は「原発性免疫不全症」と呼ばれ、非常にまれな疾患ですが、免疫に関わる細胞などで分類され、300以上もの種類があるため、診断や治療に慎重な判断が求められます。

最も重症の原発性免疫不全症として重症複合免疫不全症(SCID)があります。早期に診断できないと感染症のため乳児期に死亡してしまいます。米国で2008年、SCIDの新生児スクリーニング検査が開始され、早期発見の有効性が示されました。日本でも少しずつスクリーニング体制が広がりつつあります。

厚生労働省の調査研究班がまとめた、「原発性免疫不全を疑う10の徴候」(http://pidj.rcai.riken.jp//10warning_signs.html)というホームぺージもありますので、参考にしてみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

西川拓朗(鹿児島大学病院小児科)